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大阪高等裁判所 昭和37年(ラ)72号 決定 1963年2月15日

抗告人 中山よし(仮名) 外一名

相手方 山本千吉(仮名)

主文

抗告人等の本件抗告を却下する。

抗告費用は抗告人等の負担とする。

理由

抗告人等の本件抗告の趣旨及び抗告理由の要旨は別紙記載のとおりである。

当裁判所の判断。

本件記録と大阪家庭裁判所堺支部昭和三六年(家イ)第一八一号遺言書無効確認調停事件の記録によれば次のような事実が認められる。亡中山三郎は昭和三六年一月二五日付の遺言書によつてその所有不動産の中、一、(イ)大阪府堺市北長尾町二丁○○番地上、木造スレート瓦葺二階建共同住宅一二戸建一棟延坪七五坪二合四勺、(ロ)同町二丁○○番地上木造セメント瓦葺平家建住宅一棟建坪二九坪二合五勺、木造亜鉛鋼板葺二階建住宅一棟一七坪五合、二階坪一七坪五合、(ハ)同町二丁○○番地の一宅地一一九坪六合、同番地の二田三畝二九歩、及び同町二丁○○番地宅地一六六坪八合六勺、以上三筆の土地の中地上に現在する共同住宅××荘及び△△荘の敷地供用部分、(ニ)同市三国ケ丘町八丁○○○番地上、木造瓦葺二階建店舗付住宅一棟、建坪二六坪五合八勺二階坪二三坪八合六勺、附属建物、木造瓦葺平家建便所一棟建坪一坪五合、(ホ)同所同番地田八畝一七歩の中上記(ニ)記載の家屋敷地供用部分を中山ふえに、二、(イ)同市中長尾町一丁○○番地の○宅地一〇六坪八合七勺、(ロ)同町一丁○番地田七畝九歩、(ハ)同町一丁○○番地の○地上木造瓦葺二階建居宅一棟建坪二九坪一合八勺、二階坪一一坪五合二勺、木造瓦葺平家建居宅一棟、建坪四坪八合三勺、(ニ)同市北三国ヶ丘町八丁○○○番地の○の○○、宅地一一四坪中建坪七〇坪、二階坪六四の木造瓦葺二階建アパートの敷地供用部分、(ホ)上記(ニ)記載の建物を中山洋子に、三、(イ)同市中長尾町一丁○○番地田一畝一七歩、(ロ)同町一丁○○番地の○田三畝二二歩を中山昭吉に、四、(イ)同市三宝町四丁○○○番地の○○宅地九坪九合七勺、(ロ)、同地上家屋番号同町第一七九番木造瓦葺二階建店舗建坪五坪二合、二階坪四坪七合五勺を三田二郎に、五、(イ)同町四丁○○○番地の○○宅地九坪九合七勺、(ロ)同地上家屋番号同町第一七九番の五木造瓦葺二階坪店舗建坪五坪二合、二階坪四坪七合五勺を岩山進に、六、(イ)同町四丁○○○番地の○○宅地八坪五合五勺、(ロ)同地上、家屋番号同町第一七九番の二木造瓦葺二階建店舗建坪五坪二合二階四坪七合五勺を上記二郎及び進の両名に各遺贈した外三田裕之にも所有財産を遺贈したが、三郎の死亡後相続人たる抗告人両名と前記受遺者等、就中遺言書を所持していた中山ふみ(同人は右受遺者洋子、同昭吉両名未成年につき各その法定代理人たる親権者である。)との間に遺言の効力に関し紡争を生じ、右相続人両名は大阪地方裁判所堺支部に遺言書無効確認請求の訴を提起し(同庁昭和三六年(ワ)第一〇七号)、同裁判所は昭和三六年一〇月六日職権をもつて右事件を大阪家庭裁判所堺支部の調停に付し、同年(家イ)第一八一号事件として同年一一月六日を第一回として以後六回に亘つて調停期日を開いて続行し、前記三田二郎及び岩山進を除く爾余の前記受遺者等と相続人中山よし同中山房子の間においては同年一二月二六日、受遺者三田二郎及び同岩山進との間においては昭和三七年一月一六日に至つていずれも調停成立した。その調停調書の記載によれば、受遺者中山ふみは前記一の(ニ)、(ホ)、受遺者洋子は二の(ニ)、(ホ)の各遺贈を、受遺者裕之はその遺贈全部を各放棄し、相続人中山よし同中山房子は右放棄部分以外の前記各遺贈の効力を承認し、なお遺言執行者に対する報酬は右相続人両名と受遺者中山ふみが折半負担することに双方の合意が成立したのである。

そこで遺言執行者山本千吉は右調停の結果に従い遺言の執行に任じ昭和三七年三月二四日これを終了したのである。その間山本千吉は昭和三六年一月一八日就職以来遺言執行者として、受遺者等と他の相続人間の感情的対立、確執に悩まされながら多数関係人と屡々面接し、親しく銀行市役所法務局等に出張して相続財産に関する各種の調査を遂げ、遺贈物件中第三者に賃貸している共同住宅の賃料取立保管等の管理運営行為に任じ、前記調停事件につき利害関係人として期日に出頭し、約一年二ヶ月の日時を費して遺言執行事務を完了した。

亡中山三郎は生前堺市著名の資産家でその遺産としては前記遺贈物件を除いてもなお数百坪の土地(地目は田地若しくは宅地)及び建物等の不動産並びに多額の有価証券その他が存し中山ふみの受贈土地の価格も時価五〇〇万円を下らないものである。以上の事実が認められる。

そして原審が本件遺言執行者に対する報酬額を定めるについて、以上に認定したような三郎死亡後の遺言に関する利害関係人の紛争の実状及び解決の経過、遺贈物件その他の相続財産の範囲とその価格の状態、遺言執行として現に行なつた具体的事務の繁閑、受遺者と相続人双方の資産、その生活関係その他諸般の事情を総合斟酌してこれを定めたことは原決定に明示するところである。ところで家庭裁判所がその選任した遺言執行者につき審判によりこれに対する報酬額を定める場合においては、その具体的数額を幾ばくとするかの決定はもつぱら当該裁判所が各具体的場合に応じてなす裁量に委ねられているところと解せられるのであつて、原則としてはその決定せられた額の当否を争つて不服の申立をすることは許るされないところと解せられるけれども、若し当該の場合における相続財産の価格、遺言執行事務内容の繁閑、受遺言者及び相続人その他の利害関係人の資産生活事情等具体的諸関係に照らし、遺言執行者に対する報酬額として決定せられた金額が客観的に高低いずかに失し、明らかに当該家庭裁判所がその数額を定めるにつき著るしく裁量を誤り不当な決定をしたものと認められ、これを維持したのでは当該相続利害関係人に重大不合理な不利益を課し、相続人と受遺者の間に実質上著しい不公平を招来する等社会正義に恃る結果となる場合には例外的に右の如き不当の匡正を求め得べきものとするのが相当である。

もつとも遺言執行者の報酬決定に対する即時抗告を許容した規定はないけれども、これは家事審判規則の不備ないし遺漏というべきである。このような場合、法の解釈理論上、同規則の明文の規定を類推適用することができるものと解する。そして遺言執行者の報酬決定に対する不服申立は、あたかもその解任の申立(もし解任された場合は、その者は爾後の報酬を得ることができなくなる)を却下された場合の不服申立に類似するものがあるというべく、従つて、同規則第一二七第一項を類推適用して、これが即時抗告を許すべきものと解するのが相当である。

そして本件につき前記認定の事実関係を総合斟酌するときは本件遺言執行者に対する報酬の額を決定するにつき、その具体的数額としては唯原審の定めた七〇万円という数額だけが相当な額であり得べく、それ以下であつても以上であつても本件の報酬としては妥当でないというようなものではなく、或いはいま少しそれよりも低額であつても必ずしも相当な報酬額といえないものではないと解せられるけれども、前示のように遺言執行者の報酬につき調停によつて受遺者と相続人双方においてこれを折半負担すべきことに定められた結果抗告人両名の負担に帰すべき額は三五万円の限度にとどまるものであることを考えれば、原審が具体的報酬額として七〇万円と定めたことをもつて抗告人等に対する関係において、前記説明のように著し裁量を誤まつたものであり本件遺言執行者をして原審所定の報酬を現実に収得せしめることは社会的不正義を以つて目すべきものであるというまでの事情があるとは到底解せられないし、抗告人等の遺留分を減ずる結果を招来するとも認められない。

したがつて本件即時抗告申立は未だ前記例外の場合にあたらないものと認められるから不適法として却下すべきものである。

そこで抗告費用の負担につき民訴法第八九条、第九三条を適用し主文のとおり決定する。

(裁判長裁判官 山崎寅之助 裁判官 山内敏彦 裁判官 日野達蔵)

抗告理由<省略>

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